公認会計士試験は、短答式試験と論文式試験の2段階形式で行われます。最初に受験することになる短答式試験は、公認会計士を目指す受験生にとって第一の関門といえるでしょう。
短答式試験は学習範囲も広く、また難易度の高い問題も多く出題される試験です。そのため、各試験科目ごとの出題形式や対策方法を把握したうえで、適切な対策を練ることが必要となります。
そこで、この記事では短答式試験の試験形式等の概要や合格状況、科目別の勉強方法について解説していきます。
公認会計士の短答式試験とは?
受験資格
公認会計士の受験資格は、以前は、大学での単位取得要件など厳しく制限されていました。
しかし、現在は、受験資格に制限は設けられておらず、性別、年齢、学歴を問わず、誰でも試験を受けられる試験となっています。
実際に、20歳未満での合格者も珍しくなく、なかには16歳の高校生が合格したこともあるなど、公認会計士は門戸の広い試験といえるでしょう。
試験形式・概要
短答式試験は例年12月上旬と5月下旬の年に2回実施されています。
この短答式試験に合格した人だけが、例年8月中旬に実施される論文式試験に挑戦できるため、公認会計士を目指す受験生の最初の関門となっています。
短答式試験の合格発表は、試験の1か月後前後に実施され、合格者は論文式試験のに進むことになります。
短答式試験では4科目(財務会計論、管理会計論、監査論、企業法)実施され、マークシート形式による選択問題での出題となっています。
なお、短答式試験の持ち物は電卓のみで、論文式試験と違い会計基準集などは配布されません。
短答式試験の試験形式・概要は下表のとおりです。
実施時期 | 12月上旬、5月下旬(年2回) |
---|---|
回答形式 | マークシート形式 |
出題科目 | 財務会計論、管理会計論、監査論、企業法 |
試験時間 | 60分(財務会計論は120分) |
配点 | 各科目100点満点(財務会計論は200点満点) |
合否判定 | 総得点の70%を基準として、公認会計士・監査審査会が相当と認めた得点比率で判定 |
免除制度
短答式試験には、税理士・司法試験合格者や実務経験者等に対する免除規定が設けられています。
また、短答式試験は1度合格すれば毎年受験の必要はなく、合格後2年間にわたり短答式試験は免除されます。
免除対象者 | 免除となる科目 |
---|---|
①税理士となる資格を有する者 | 財務会計論 |
②税理士試験の簿記論及び財務諸表論の合格者及び免除者 | 財務会計論 |
③大会社・国・地方公共団体等で会計または監査に関する事務または業務等に従事した期間が通算7年以上になる者 | 財務会計論 |
④一定の要件を満たす会計分野に関する専門職大学院修了者 | 財務会計論、管理会計論、監査論 |
⑤司法試験合格者 | 短答式試験免除 |
⑥前年、前々年の公認会計士短答式試験合格者 | 短答式試験免除 |
データでみる公認会計士の短答式試験
直近の合格状況
近年の短答式試験合格発表における合格者数、合格率は下表のとおりです。
直近の2022年短答式試験の結果は第Ⅰ回(12月実施)の合格者数が1,199人、合格率が12.1%、第Ⅱ回(5月実施)では合格者数780人、合格率7.9%となっており、各回とも合格率は10%前後となっています。
願書提出者数が増加したことに伴い、合格率としては直近期と比較すると合格率は低下しています。
なお、2021年の短答式試験は、合格率が20%を超え高くなっています。
これは、2021年の短答式試験がコロナによる試験の延期等の影響から2021年5月の1回のみの実施となったことに伴うものです。
各年の合格者数(第1回+第Ⅱ回)としては、2020年:1,861人、2021年:2,060人、2022年:1,979人となっており、概ね2,000人前後で推移しています。
2020年Ⅰ回 | 2020年Ⅱ回 | 2021年 | 2022年Ⅰ回 | 2022年Ⅱ回 | |
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①短答式試験 受験者数 |
9,393人 | 8,260人 | 12,260人 | 12,719 | 12,958人 |
②答案提出者数 | 7,245人 | 5,616人 | 9,524人 | 9,949人 | 9,870人 |
③合格者数 | 1,139人 | 722人 | 2,060人 | 1,199人 | 780人 |
④ 合格率 (③÷②) |
15.7% | 12.8% | 21.6% | 12.1% | 7.9% |
第1回の試験合格を目指すのがおすすめ?
短答式試験では第Ⅰ回の試験合格を目指すのがおすすめです。
理由は下記の2点です。
- 論文式試験の勉強時間を確保しやすくなり、論文式試験に有利になる
- 例年、第Ⅰ回試験の方が合格率が高い
1点目は、前述のとおり、公認会計士試験日程は短答式が例年12月上旬(第Ⅰ回)と5月下旬(第Ⅱ回)の年2回、論文式が8月に年1回実施されます。
短答式試験の合格後は、次の論文式試験に向けた勉強を開始することになりますが、第Ⅱ回の短答式試験に合格した場合には、8月の論文式試験まで3カ月ほど準備期間がありません。
一方で、第Ⅰ回で合格した場合、1月~8月までの8か月の準備期間を得ることができるのです。
論文式試験は年1回のみの日程のため、不合格となると、また1年後の試験まで勉強を続けなくてはならなくなります。
そのため、早期の資格取得を目指す方には、第Ⅰ回の試験合格を目標とすることをおすすめしています。
2点目として、第Ⅰ回試験の方が合格率が高いことが挙げられます。
過去の合格者数の推移をご覧頂くと、例年の傾向として第Ⅰ回と第Ⅱ回では、第Ⅰ回の方が合格者数が多い傾向にあります。
これは第Ⅱ回試験で年度ごとの合格者数を調整しているためといわれています。
この調整により、例年、第Ⅱ回試験の方が合格ボーダーが高くなる傾向があり、第Ⅰ回の試験合格を目指すのがおすすめです。
科目別の勉強法
短答式試験は、マークシート形式であるがゆえに試験範囲も広く、暗記しなければならない事項も多いです。
また、問題量に対し与えられる試験時間も少ないため、限られた時間のなかで問題の趣旨を瞬時に理解し、解答を探し出す瞬発力や処理能力が試されます。
このため、効率よく学習を進めるためには、試験科目別の出題傾向や対策方法を練って学習計画を策定することが必要となります。
ここでは、科目別の勉強方法について解説します。
財務会計論
財務会計論は、簿記・財務諸表論の知識を試す科目です。
公認会計士業務の基礎ともいえる試験科目のため、短答式試験のみならず、公認会計士試験を通じて最も重要な科目といえるでしょう。
短答式試験においても、他の試験科目は試験時間60分、配点100点であるのに対し、財務会計論は試験時間120分、配点200点と、他の試験科目より2倍の配点となっており最も優先して学習すべき科目であるのがわかると思います。
財務会計論は、主に計算問題の簿記と理論問題の財務諸表論の2つに分かれます。
しかしながら、これらは全く異なる内容ではなく、むしろ共通する内容のため簿記で会計処理を学んで財務諸表論で理論を学び落とし込むという、同時並行的に学習すると効率的といわれています。
こうすることで、会計処理や計算問題の背景にある会計理論を一体として理解することができ、知識の定着率が良くなるため、おすすめしています。
管理会計論
管理会計論は、経営者の意思決定に用いられる管理会計及び原価計算の知識を試す試験科目です。
管理会計論は、財務会計論と同様に計算問題が中心に出題される試験科目であり、難易度や試験範囲も広く財務会計論の次に優先して学習すべき科目といわれています。
おすすめの勉強法は、理論問題をしっかりと抑えることです。
計算問題は出題のバリエーションが広く、年度によっては複雑な難問も出題されることがあり、予想が立てずらい分野です。
一方で、管理会計論の理論問題は、配点の3-5割程度を占めますが、多くの理論問題は原価計算基準という基準から出題されます。
この原価計算基準は、全30P程度と分量も多くなく、比較的簡単に対策することができます。
そのため、原価計算基準を中心に理論問題をしっかりと抑え、ベースとなる得点源を確保したうえで、計算問題を学習するという勉強方法がおすすめです。
監査論
監査論は公認会計士の独占業務である財務諸表監査の実務や理論の知識を試す試験科目です。
理論問題が中心ですが、試験範囲としては膨大で、全ての問題を完璧に対策することは難しい科目です。
また、ほとんどの受験生にとっては監査や会計の実務経験などがなく、学習内容のイメージが難しい科目でもあります。
おすすめの勉強方法は、答練や過去問を繰り返し解き続けることです。
監査論では、tac・大原・CPA学院など予備校の講座やテキストで理論を一通り頭にインプットしたら、答練等の問題を繰り返し解くことで効率的な学習ができるでしょう。
監査論は試験範囲としては膨大で、全ての問題を対策することは困難です。
そのため、繰り返し問題を解くことで出題頻度の高い典型論点については着実に得点できるようにし、勉強時間を他の科目に割り振ることをおすすめします。
企業法
企業法は、会社法をメインとして、その他金融商品取引法や商法の知識を試す試験科目です。
理論問題が中心であり、試験範囲はある程度限られているものの、覚える内容が多く、法律条文を読むことや暗記が苦手な方にとっては難しい科目です。
一方で、試験範囲はある程度絞られていることから対策を立てやすい試験科目でもあり、得点源ともなりうる科目です。
そこで勉強方法としては、とにかく知識を頭に入れていく必要があるため、やはり、問題集や模試や答練を繰り返し解き、わからない部分があればテキストで調べる勉強法が効果的です。
人によって向き不向きはあるかもしれませんが、比較的対策しやすい科目で安定した得点源にできる科目でもあるため、財務諸表論、管理会計論の次に優先して勉強することをおすすめします。
まとめ
この記事では、公認会計士を目指す受験生にとって第一の関門といえる短答式試験の試験形式等の概要や合格状況、科目別の勉強方法について解説しました。
短答式試験は学習範囲も広く、また難易度の高い問題も多いため、各科目ごとの対策方法を把握したうえで、適切な対策を練ることで、合格へと近づくことができます。
それそれの科目の特徴を捉えたうえで、自分にあった対策、勉強を進めていきましょう。